「的」については多くの人が書いていると思う。1990年代に作家の井上ひさし氏が書いていたのを私は覚えている。
特に新しい内容ではないが、文章を書くときにいつも気になっているので、書いてみたい。
「的」の使い方
1 所有・所属
・国家的観点、は国家の観点という意味で、所有を表している。日本語の「の」は所有格だと教えられる。私の家、のように。
・私的な話 は所属の意味が強い。私に属する話、だ。
概念から見れば以上だが、文法から見れば、形容詞として働いていると思う。国家を形容詞に変えて観点にかける。私を形容詞に変えて話にかける。名詞に「的」をつけて形容詞として使う。
2 周辺を含ませる
・名詞的に使う は厳密に名詞としてではなく、まるで名詞のように使う、という意味だ。
・戦後的な考え は厳密に戦後に限定した考えではないが、主に戦後に流行している考え、という意味だ。
以上2つの使い方があるのだが、2も形容詞として働くので、2は1を兼ねることが出来る。
例えば、動的描写 は、字面だけを見ると、動いている物の描写、だが、更に、実は止まっているのだがまるで動いているような描写、ともとれる。゛動く〝の意味の範囲が不明瞭になっている。
この、周辺を含ませる「的」の使い方が、文章を書くとき、ある事実や概念に自信の無いときに非常に便利に使えるのだ。取り合えず「的」をつけて置けば言い逃れできるだろう、何となくみんなが納得してくれるだろう、と。事実を調べるのは面倒くさい、ボカシてしまえ、と。つまり事実ではなく、雰囲気を漂わせられる。昔の言い方をすれば、汗はかいてないくせに、しっかり収穫だけはしているのである。
故についつい安易に使いたくなる。が、使えば使うほどに概念の意味がボケてしまうので、文章全体としてあいまいな内容になってしまう。
追記
◎ 利己的な奴 という使い方があるが、利己であることをぼかす必要は無いので、利己な奴、で良いと思う。利己的な遺伝子、の「的」は、ぼかしているのではなく、ただ形容詞として使っている。
◎ 「的」の中国語での使い方が気になったので調べてみると、2の意味は書かれていない。
例えば
https://chstudy.net/basic-grammar10/
こちらは所有・所属と形容詞の使い方が書いてある。
さらに細かく書かれているのが
https://www.1chinese.com/ala/10066/
こちらは日本語にはない用法、動詞や形容詞などに「的」をつけて名詞にする用法が書いてあるが、ぼかす意味は書かれていない。
日本語の意味を調べると
https://www.weblio.jp/content/%E7%9A%84
4の意味が、ような、でぼかす意味になっている。
余談
英語の「of」は違った意味で紛らわしい。
one of them のofは、その中の一部、を意味している。
しかしofには
two of you (あなたたち二人)のようにイコールの関係でつなぐ意味もある。
つまりおおよその文脈が分かっていなければ、あるofが一部を意味しているのか、イコールなのか判断できない。