何かふとしたきっかけで、歌が口をついて出て来ることがある。多くの場合、歌の歌詞の一部が今の気持ちと共振した出来事だと私は思っている。無意識の中で反応が起こって意識に湧いて出てきたのだ。
歌を口ずさむとオリジナルの曲を聴きたくなる。昔はカセットテープやMDやCDをガサゴソひっくり返して探したものだ。見つかればよいが、見つからなければ仕方なく自分で口ずさみ続けた。
運よく録音した曲が見つかるとウキウキした気持ちで再生する。ところが曲を再生すると、思わず口をついて出た時に感じていた心の奥底の虚しいような、悲しいような切ない気持は吹き飛んでしまい、歌手の声と楽器の音がダイレクトに心を占領してしまう。別のフェイズに切り替わってしまうのだ。
結果、私が浸りたかった感情は消え失せて、別のもので満たされている。
今日では聴きたい曲は、誰が歌っているかを気にしなければ、動画サイトでほとんど聴ける。つまり浸りたかった感情には浸れない。便利さが希望を達成しない。
このようなことが続くと、曲を聴くと浸れなくなる、ということが強く意識され、敢えて曲を再生しない、ということも多くなった。
意識的に無意識のモヤモヤを楽しむのである。
むかし木造の安アパートに住んでいた時、夜に帰宅して暗い部屋に入ると、窓から僅かな明かりが差し込んでいて、何ともいい雰囲気になっていることが時々あった。懐かしいというか、心の奥を刺激して感傷的にさせるのである。
が、点灯するとたちまちその雰囲気は壊れ、何でもない景色が現れる。それが惜しくて電灯をつけないでしばらくその雰囲気を楽しむことが時々あった。
口ずさむ曲と再生された曲はそのことを私に思い出させる。