初めていった外国はタイである。1986年のことだった。バンコクでは毎朝、宿近くの総菜屋で朝食をとるのが日課になっていた。客室に一台テレビがかけっぱなしになっていて、私が行く時間、いつもマンガ日本昔話が流れていた。馴染みのあの主題歌も流れていた。その番組の合間にコマーシャルが入るのだが、商品が大写しになって、商品名を連呼する宣伝が多かった。当時の私には、それがいかにも途上国らしく映った。
当時、レインボウという男性歌手グループのある曲が大ヒットしていて、文字通りどこに行ってもその曲が流れていた。
私が学生だった時、Stevie Bの Because I iove you という曲が大ヒットしていたが、もうどこに行ってもその曲ばかりかかっていて、うんざりしたことがあったが、そのことを思い出した。
このタイの爆発的大流行も当時の私には途上国らしく見えた。
街を歩いていると、商店や食堂が歩道を占領して歩きづらいことがしばしばであった。日本もひどかったが、日本の比ではなかった。それもまた途上国らしく見えた。
中華街に宿をとっていたが、夕方や朝は中国系の人が寝間着で近所を出歩いているのをよく見かけた。それもまた途上国らしく見えた。これは今でも変わってないかもしれない。
帰国後、ぼんやりテレビを見ていると、当然コマーシャルが流れてくる。それを見ていると、つい思ってしまったのである。いま日本に居る外国人がこれを見たらどう思うかなぁ、と。旅行に行く前は、そんなことは思ったこともなかった。
テレビで音楽番組を聴いても、街の看板を見ても、地下鉄の乗り方を見ても、選挙カーの候補者の名前の連呼を聞いても、外国人だったらどう思うかな、とつい考えてしまったのである。外からの視点を獲得したのだ。別の言葉で言えば、世界が広がったのである。
未知の世界に出ると、世界が広がって、その地点から今までの世界を見ることが出来るようになる。今までの世界を相対化する手段を持つのである。
というような効用があるので、まだ外国へ行ったことのない人は一度外国に行ってみることをお勧めする。
未知の領域は外国に限らないので、とにかくそこに行く、それを経験することは大切だと思う。私もそれを心掛けたい。