2016年3月にインドのコルカタに滞在していた。タラゴン guest house という安宿に泊まっていた。Wifiが壊れて使えない、ということだった。この時代にインドでWifiが使えないとは、客を拒否しているようなものである。
1階の部屋はすべて壊れていて使えなかった。2階と3階の一部の部屋が使用可能であった。2階のトイレは詰まって使えず、3階のトイレひとつだけが使えたが、客が少なかったので、困ることは無かった。
私は高いところから景色を見るのが好きなので、到着の夜に屋上に行ってみた。屋上は真っ暗で、足元もおぼつかなかった。
屋上の真ん中でタバコの火が見えたので近寄ってみると、階下から椅子を持ってきたのか、暗闇の中、一人の男がタバコを吸っていた。
少し喋ったのだが、身体から力が溢れ、妙に落ち着いていて、威圧感があり、いわく有り気であった。イスラエル人だと名乗った。
部屋に戻ってから、その押し出しの強さを思い出しながら、まさかモサド、と勘ぐった。
翌朝、偶然1階で出会った。驚いたことに、華奢な体になっていて、しかも気弱そうな表情で私に挨拶を返してきた。昨夜の雰囲気は微塵もなかった。
それで合点がいった。彼は昨夜ドラッグをやっていたのだ。それで力が漲っていた。
よく考えれば、モサドがこんな安宿に泊まることなどないだろう。そんな勘違いをした自分が妙におかしかった。
追記
2018年12月にコルカタを訪れた時、同じ宿に寄ってみると、改装中で閉鎖していた。この宿は古くは日本人旅行者の常宿として有名であった。前回、宿が荒れていたのは既に改装する予定だったのだろう。
かって世界中に在った日本人宿はほとんどが消滅した。理由の一つは、日本が貧しくなったため日本人旅行者の数が減って採算が取れなくなってきたからだ。もう一つの理由は、ブッキングサイトが普及したので、そこに登録した時点で、世界中の旅行者の目に触れることになったからだ。