外国旅行先で出会った旅行者からときどき、日本の物価は安い、という話を聞いた。彼らが指しているのは、スーパーやコンビニの弁当のことや、ランチ定食のことだった。
それを聞くたびに、浮かれて旅行をしている私は、日本の状況を再認識しないわけにはいかなかった。
外国旅行者にとって日本の物価が安くなった理由は、以下の通りだろう。
1 円の価値が下がった。国力が下がったので、円安に傾いている。つまり旅行者にとっての自国の通貨が高くなった。
2 日本人の一定の人たちが貧しくなったので、その人たち向けの商品が開発されて、質は悪いが値段の安い食品が売られるようになった。その恩恵を外国の貧乏旅行者も受けている。経済の長期衰退に入る前は、ワンコインランチなどなかったと思う。スーパーやコンビニの300円前後の弁当もなかった。スーパーの野菜売り場で、不揃いのパック詰め野菜の安売りもほとんど見かけなかった。
ある台湾人から、台湾の物価はスペインとほぼ同じで、日本の8割ぐらいだ、と言っていた。また別の情報で、韓国の物価は、日本より少し高いぐらいだ、という話も聞いた。
20年前に韓国や台湾に旅行した時は、だいたい日本の物価の半額で計算をしていた。この20年でほぼ追いつかれ、追い越されている。
外国と交流のある人や、経済指標に興味のある人は、日本の没落をリアルタイムでひしひしと感じているだろうけど、そうでない人たちは緩やかにずるずると没落していってる状態を実感できていないような気がする。故に危機意識もない。
問題なのは、外国旅行に行く費用が高くなった、と言うことではなく、経済が停滞して税収が落ち込み、社会保障政策に使える予算が少なくなっていることだ。具体的には、行政サービスの質を落とす、または社会保障税を上げる、を選択せざるを得なくなることだろう。
日本の労働者を過酷に働かせて、競争力を維持し、途上国を搾取して金持ちの国でいるより、中程度の国でいいので、精神的に豊かな国でありたい、と思っていた20年前の私の認識が甘ったるくも懐かしい。