2023年5月、コロンビア・アマゾンに墜落したセスナに乗って生き残った子供たち4人を40日目に救出するまでのドキュメンタリーである。世界的なニュースになっていたようで、当時の取材映像をふんだんに取り入れて臨場感がある。
よくあるサバイバルものではない。墜落したセスナに乗っていた乗客は全員先住民である。他の中南米諸国と同じくコロンビアの支配民族は、スペイン人と先住民の混血であるメスティソと、白人である。アマゾンに救助に向かったのは彼らを主体とする特殊部隊である。1960年代から続き、1990年代に激しさを増した内戦で、貧しく差別された森林地帯に住む先住民は左派ゲリラの活動拠点になり、政府軍による殺人、拷問が絶えなかった。2016年にその多くの闘争は終結したが、先住民は軍を信じていないし、多くのメスティソは先住民を見下している。
私は2014年に1ヶ月ほどコロンビアを旅行したが、首都ボゴタの公園に野宿していたホームレスのほとんどが先住民のように見えた。(メスティソも、先住民寄りから白人寄りまで幅が広く見た目だけでは判断しずらい)
そんな先住民が、軍の、しかも特殊部隊と一緒に捜索するのだ。捜索出発時、軍のヘリコプターに先住民を誘導している兵士の姿は、先住民を子供のように扱っているように私には見えた。
捜索開始後、機体自体は数日後に見つかったのだが、子供4人だけが見当たらない。捜索34日目には特殊部隊も諦めて捜索を打ち切ってしまう。あとはボランティアで構成された先住民だけが残った。明日はもう打ち切る、という39日目の夜、聖なる力を呼び出すと言われる植物から作った幻覚作用のあるアヤワスカを、捜索に参加していたシャーマンのルビオが飲む。そして魂が体から離れ、先住民の聖なる動物ジャガーとなって森の中を子供たちを探し回る。翌朝ルビオは子供たちを見つけたことを皆に告げ、その方角を示した。そして宿泊地点から4キロのところで本当に子どもたちを見つけるのだ。
森の民である先住民が、先住民の知恵と仲間の力を合わせることによって奇跡が起こった。捜索隊に加わった若い先住民ニコラスが、「子供たちと私は、愛と敬意によって救われた」と表現した。先住民としてのアイデンティティーを再確認し、自分に自信が持てたのだ。彼は17歳までの5年間、ゲリラに従軍していた。
追記
・私がこのドキュメンタリーを観始めた時、すぐに違和感を持った。ふだん見下している先住民の捜索の為に軍が大規模な捜索など何故するのか。2022年の大統領選挙で選ばれたグスタヴォ・ペトロはコロンビア初の左派大統領である。政治利用だった可能性が高いと思う。
・遭難する前の子供たちの自撮り写真が映像に流れていた。道路も通ってない孤立集落にスマホが浸透していることに驚く。ソーラーパネルで充電しているのだろうか。
・遭難した子供たちは姉13歳、妹9歳、弟5歳、妹11ヶ月である。救助されたときはミイラのようにガリガリであった。乳児は、抱えたまま死んだ母親からもぎ取ったようだ。4人とも無事だったが、強烈なPTSDになっている可能性がある。前途は多難だと思う。
・彼らの父親は子供たちを虐待していた。再会後も虐待疑惑があって、子供たちは施設に入って父親から隔離されている。
アメリカ先住民にも見られるお馴染みの構図である。侵略支配民族に見下されて民族文化の誇りを失い、自尊心を失い、アルコールに逃避し、家庭で弱いものに暴力をふるって憂さ晴らしする。そんな自分を見てますます自信を失っていく。
・コロンビアは相変わらず反体制武装勢力の活動が活発である。1960年代から活動してきた最大勢力のFARCが2016年の交渉で解体した後、その元メンバーと、同じく1960年代から活動し、2016年の交渉にも応じず現在も政府と交渉中のELNが支配地域をめぐって戦闘を開始し、100人ほどの死者と10000人以上の国内避難民を出しているようだ。(2025年1月20日の記事)
セスナ墜落時、軍が警戒していたゲリラとはELNのことである。しかし当時はすでに政府と交渉中であった。
At least 80 killed, thousands displaced in Colombia guerilla violence | South China Morning Post